類天疱瘡
類天疱瘡とは
類天疱瘡(るいてんぽうそう)とは、表皮の基底膜部に対する自己抗体による自己免疫疾患のひとつです。
日本に7000~8000人の患者さんがいると推定されていますが、軽症者を含めるともっと多くなるようです。高齢者での発症が多く、特に70~90歳代が好発年齢です。
症状や自己抗体の種類によって水疱性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡などの亜型に分類されます。類天疱瘡のうち大半が水疱性類天疱瘡に分類されます。
また、後天性表皮水疱症も基底膜部に対する自己抗体による自己免疫疾患で、水疱性類天疱瘡と症状が似ていて鑑別が難しいため、指定難病法においても類天疱瘡として扱われています。
- 類天疱瘡
- 水疱性類天疱瘡
- 大半がこの症例。かゆみのある浮腫性紅斑、緊満性水疱、びらんが多発し、約20%で口腔などの粘膜にも水疱、びらんが生じる。
- 粘膜類天疱瘡
- 主に目や口腔粘膜に水疱、びらんが生じる。鼻腔内、外陰部、肛囲の粘膜にも症状が出る場合がある。
- (後天性表皮水疱症)
- 主に機械的刺激により水疱ができるため、外力のかかりやすい四肢に症状がでやすい。
- 水疱性類天疱瘡
浮腫性紅斑(膨らみのある赤い皮疹)
緊満性水疱(パンパンに張った破れにくい水ぶくれ)
びらん(皮膚や粘膜の表皮~基底層が欠損した状態)
軽症であっても、かゆみや水疱は患者さんのQOLを大きく損ねます
症例写真 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa15/q03.html
類天疱瘡と似た疾患名に、天疱瘡、眼類天疱瘡がありますが、それぞれ別の病態として定義されています。
類天疱瘡を起こす薬
副作用として添付文書に「類天疱瘡」が記載されているのは、すべてのDPP-4阻害薬、タモキシフェン(ノルバデックス®)、バルサルタン(ディオバン®)、フロセミド(ラシックス®)、リファンピシン(リファジン®)、ニボルマブ(オプジーボ®)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)です。
このうち、フロセミドの添付文書には副作用として「水疱性類天疱瘡」と記載されています。類天疱瘡診療ガイドラインでは、薬剤との関連について「特にフロセミドとの強い相関が報告されている」と記載されています。
また、リファンピシンには「類天疱瘡様皮疹」と記載されており、類天疱瘡そのものではないようです。
類天疱瘡の発生機序
中等症以上の類天疱瘡は指定難病にも指定されており、原因は解明されていません。
類天疱瘡を防ぐには
原因不明のため、予防の手立ては今のところありません。
ただし、DPP-4阻害薬による類天疱瘡においては、特定のHLA(ヒト白血球型抗原。白血球の血液型のようなもの)遺伝子が発症リスクになる事がわかっています。
その他に注意すること
類天疱瘡の治療の詳細は省略しますが、テトラサイクリン・ニコチン酸アミド療法が第一選択薬となりつつあり、ロキシスロマイシン、レクチゾールなどが使用されることもあります。軽症例では外用ステロイドを用いる事もありますが、中等症以上では内服ステロイド、難治例では免疫抑制剤の併用やステロイドパルス療法なども用いられます。
ステロイド使用による高血糖、高血圧は原疾患の悪化にもつながるため注意が必要です。
服薬指導をしてみよう
広範囲の紅斑やかゆみ、水疱ができた場合は担当医や皮膚科医に相談する必要があります。
case1
DPP-4阻害薬を開始する
体のかゆみや水ぶくれが出来た場合はお知らせください
参考文献
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4525
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000185511.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101257.pdf
https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/autoimmune_bullous/epidermis_and_classification.html
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf
http://dm-rg.net/news/2017/12/018413.html
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf
アミロイドーシス
アミロイドーシスとは
アミロイドと呼ばれるナイロンのような線維状の異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着し、機能障害をおこす病気の総称です。複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスは国の指定難病になっています。
アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドが沈着する限局性アミロイドーシスの一種です。
アミロイドーシスを起こす薬
添付文書にアミロイドーシスの副作用が記載されているのはアダリムマブ(ヒュミラ®)とインスリン製剤です。
アダリムマブ
アダリムマブは「消化管アミロイドーシス」の副作用が添付文書に記載されています。消化管アミロイドーシスでは、沈着したアミロイドが主に物理的に消化管運動を障害し、便秘、激しい下痢、消化管潰瘍、出血、イレウスなどの症状を起こします。
インスリン製剤
インスリン製剤は「皮膚アミロイドーシス」の副作用が添付文書に記載されています。これは局所性のアミロイドーシスで、注射部位に限局した症状です。ボールの様な硬い皮下腫瘤のため、インスリンボールとも呼ばれます。
インスリン製剤には皮膚アミロイドーシスと似た症状のリポジストロフィー(皮下脂肪の形成異常)という副作用もあります。インスリンによるリポジストロフィーのほとんどがリポハイパートロフィー(皮下脂肪の肥大)なので弾性のあるしこりですが、皮膚アミロイドーシスは硬いしこりです。通常2~5cm程度の大きさですが自然消失は期待できないため、取り除く場合は外科的に切除する必要があります。
リポハイパートロフィーは以前から報告されていましたが、皮膚アミロイドーシスは最近になって報告されるようになりました。もともとこの2つは見た目や症状が似ているため、画像診断などで鑑別されずに皮膚アミロイドーシスであってもリポハイパートロフィーと診断されていた可能性が考えられます。
アミロイドーシスの発生機序
アミロイドーシスは原因タンパク質の種類によって機序が異なり、詳細はわかっていません。インスリン製剤による皮膚アミロイドーシスは、インスリンが変性してアミロイドとして注射部位に沈着するとの情報も見られますが、私が調べた限りでは詳細不明です。
皮膚アミロイドーシスを見逃すとどうなるか
アミロイドーシス部位にインスリン注射を打ってもインスリンが血中に到達できずに分解されてしまうため、血糖降下作用が減弱し血糖コントロール不良となります。
アミロイドーシス部分は痛みを感じにくいため、患者さんがあえてその部分に注射を繰り返す事で、アミロイド沈着がより進んでしまいます。また、正常な皮膚とアミロイドーシス部分ではインスリン吸収に差があるため、同じ単位数のインスリン注射でも注射部位が変わる事で血糖コントロール不良になったり、逆に低血糖のリスクにもなります。
これは同じように注射部位にしこりを起こすリポジストロフィーでも同じなので、注射部位にしこりがある場合はどちらにせよ注射手技と血糖コントロールに注意が必要です。
アミロイドーシスを防ぐには
アダリムマブによる消化管アミロイドーシスは詳細不明のため、予防法はありません。
一方、インスリン製剤による皮膚アミロイドーシスは、毎回同じ場所に注射をしないようにする事である程度防ぐ事が可能だと考えられます。前回の注射部位から指2本分ほどずらす、注射部位をローテーションしていくなど、基本的な手技の説明を徹底する事が重要です。
先ほども述べたように、インスリン製剤によるしこりができている部位は注射による痛みが少ないため、患者さんが痛みを避けるために同じ部位に打ち続けてしまう事が考えられます。注射前には患者さん自身で皮膚の状態を確認してもらうとともに、病院や薬局で定期的に皮膚の状態や注射手技を確認する事も大切だと考えます。
その他に注意すること
患者さんが「毎回注射部位を変えている」と言っても、おへその左右の同じ場所に交互に注射しているだけかもしれません。また、体が不自由な方は腕の可動域が狭く、自己注射ができる範囲が限定される事があります。その場合、注射部位が重なりやすく、皮膚アミロイドーシスやリポジストロフィーを起こすリスクが高くなるので特に注意が必要と考えられます。
添付文書には「 注射箇所の腫瘤や硬結が認められた場合には、当該箇所へ
の投与を避けること。」と記載がありますが、投薬時にしこりを見つけた場合、その場で注射部位の変更指示はせずに医師に相談する必要があります。皮膚の状態によって薬の吸収速度に差が出るため、特にインスリン製剤の場合は低血糖のリスクが高くなり危険です。
服薬指導をしてみよう
case1
注射を打つ部分を指で触ったときに、しこりを感じる事はありませんか?
しこりがある場合、急に注射部位を変えると普段よりインスリンの作用が強く出て低血糖のリスクがあるため、注射部位の変更指示はせずに医師に相談するよう指導します。
case2
体の動きが悪い方や、網膜症などで視力の低下があると、注射部位をずらす事が難しく同じ部位に注射する事が多くなる事も考えられます。
いつもどの部分にインスリン注射をしていますか?打ちにくいと感じることはありませんか?
case3
いつもおへその右と左に交互に打っているよ
患者さんが「毎回違う場所に注射している」と言っても、同じ部分に頻繁に注射している可能性があります。特に長期に渡ってインスリン治療をしている患者さんは慣れによる自己判断もあるので、定期的に確認が必要です。
参考文献
はじめに
このブログは薬局薬剤師として日々業務に携わるにあたり、いかに簡潔に正しく情報を患者さんに伝えるかを目的として、薬や病気の知識、投薬時のポイント、注意すべき点などを個人的に考察してまとめたものです。そのため、主に薬剤師を中心とした医療従事者に向けた内容である事をご了承ください。
また、各種ガイドラインや添付文書、書籍などを参考にしており、各記事の最後に「参考文献」としてまとめています。科学的根拠を大切にし、正確な内容を心掛けていますが、まだまだ不勉強な部分も多く内容の正確性については保証できませんのでご容赦ください。もし、内容に誤りや不適切な表現があれば、ご指摘いただけると嬉しいです。
服薬指導において明らかな間違えは(間違った知識を伝えるなど)あっても、正解はないと思います。治療の目的はその患者さんが求める事によって異なるのだから、指導内容も患者さんによって異なります。
例えば、作用機序についても詳細な説明を求める患者さんもいれば、大まかなイメージを求める患者さんもいます。画一的ではなく、求めるものに応じた説明ができるようになる必要があると思います。
まずはその会話のきっかけとなる声掛けについて考えをまとめ、投薬時に活用できるようにブログとして発信することにしました。
日々の投薬の一助になればとても嬉しいですが、まずは自分自身の備忘録としてブログを利用していることをご理解いただければと思います。
リポジストロフィー
リポジストロフィーとは
皮下脂肪細胞が異常に肥大化するリポハイパートロフィー、逆に皮下脂肪細胞が萎縮するリポアトロフィーをまとめてリポ(脂肪)ジストロフィー(形成異常)と呼びます。
リポハイパートロフィーは弾性のあるしこりで、皮膚表面から触れる事ができます。
リポジストロフィーを起こす薬
以前は一部の抗HIV薬で「後天性リポジストロフィー」と副作用に記載されていましたが、「体脂肪の再分布/蓄積」に表記が統一されました。
そのため、現在「リポジストロフィー」と副作用に記載があるのはインスリン製剤と一部の成長ホルモン製剤のみです。
成長ホルモン製剤
成長ホルモン製剤ではソマトロピンBS皮下注「サンド」シュアパルの添付文書にのみ「後天性リポジストロフィー」と記載がありますが、先発品(バイオシミラーのため、先発品とジェネリックの関係ではないですが)にあたるジェノトロピン®にはその記載はありません。
ただし、成長ホルモン製剤には注射部位の局所の副作用として「皮下脂肪の消失」と記載されています。これは局所的リポアトロフィーと同一と考えられます。
インスリン製剤
インスリン製剤では注射部位の副作用として「リポジストロフィー」と記載されています。これは、遺伝子異常による先天性リポジストロフィーのような全身性の症状ではなく、インスリン注射部位のみの局所的な症状です。
注射部位に起こるリポアトロフィー(脂肪細胞の萎縮、皮膚のへこみ)は、ヒトインスリン製剤が開発される前の動物インスリン製剤が使用されていた時代には報告がありましたが、現在使用されているヒトインスリン製剤、ヒトインスリンアナログ製剤ではほとんど報告がないようです。
よって、現在インスリン製剤によって起こるリポジストロフィーはリポハイパートロフィー(脂肪細胞の肥大、皮膚のふくらみ)と言えます。
日本糖尿病協会の発行する「インスリン自己注射ガイド」にリポハイパートロフィーの症例写真が多数載っていて、とても参考になります。注射部位のローテーション方法などもわかりやすく記載されています。
インスリン製剤による注射部位の副作用にはリポハイパートロフィーと似た症状の皮膚アミロイドーシスもあります。
リポジストロフィーの発生機序
成長ホルモン製剤によるリポジストロフィーは注射部位における皮下脂肪の消失でした。これは成長ホルモンの作用である脂肪分解促進作用で説明できます。
一方、インスリン製剤によるリポハイパートロフィーはインスリンの脂肪合成促進作用で説明できます。インスリンにより脂肪細胞ではGLUT-4の働きで細胞内にグルコースが取り込まれ、細胞内でトリグリセリドに変換されて蓄積されます。
長期間、同じ場所にインスリン注射を繰り返すと、この脂肪同化作用が局所的に起こり、脂肪のかたまり(=リポハイパートロフィー)を形成します。
リポハイパートロフィーを見逃すとどうなるか
成長ホルモン製剤によるリポアトロフィーについて、詳しい資料が見つけられなかったため、ここではインスリン製剤によるリポハイパートロフィーについてのみ見ていきます。
リポハイパートロフィー部位にインスリン注射を打ってもインスリンが血中に到達できずに分解されてしまうため、血糖降下作用が減弱し血糖コントロール不良となります。
リポハイパートロフィー部分は痛みを感じにくいため、患者さんがあえてその部分に注射を繰り返す事で、脂肪の肥大化がより進んでしまいます。また、正常な皮膚とリポハイパートロフィー部分ではインスリン吸収に差があるため、同じ単位数のインスリン注射でも注射部位が変わる事で血糖コントロール不良になったり、逆に低血糖のリスクにもなります。
リポジストロフィーの初期症状
注射部位を手で触れることで、しこりやへこみを感じることができます。また、しこりが大きくなると外見上からも膨らみが確認できるようになります。
リポジストロフィーを防ぐには
注射製剤による局所のリポジストロフィーを防ぐには、毎回同じ場所に注射をしないようにするしかありません。前回の注射部位から指2本分ほどずらす、注射部位をローテーションしていくなど、基本的な手技の説明を徹底する事である程度予防できると考えられます。
先ほども述べたように、インスリン製剤によるリポハイパートロフィーができている部位は注射による痛みが少ないため、患者さんが痛みを避けるために同じ部位に打ち続けてしまう事が考えられます。注射前には患者さん自身で皮膚の状態を確認してもらうとともに、病院や薬局で定期的に皮膚の状態や注射手技を確認する事も大切だと考えます。
その他に注意すること
患者さんが「毎回注射部位を変えている」と言っても、おへその左右の同じ場所に交互に注射しているだけかもしれません。また、体が不自由な方は腕の可動域が狭く、自己注射ができる範囲が限定される事があります。その場合、注射部位が重なりやすく、リポジストロフィーなどの局所的な副作用を起こすリスクが高くなるので特に注意が必要と考えられます。
添付文書には「 注射箇所の腫瘤や硬結が認められた場合には、当該箇所へ
の投与を避けること。」と記載がありますが、投薬時にしこりを見つけた場合、その場で注射部位の変更指示はせずに医師に相談する必要があります。皮膚の状態によって薬の吸収速度に差が出るため、特にインスリン製剤の場合は低血糖のリスクが高くなり危険です。
服薬指導をしてみよう
case1
注射を打つ部分を指で触ったときに、しこりを感じる事はありませんか?
しこりがある場合、急に注射部位を変えると普段よりインスリンの作用が強く出て低血糖のリスクがあるため、注射部位の変更指示はせずに医師に相談するよう指導します。
case2
体の動きが悪い方や、網膜症などで視力の低下があると、注射部位をずらす事が難しく同じ部位に注射する事が多くなる事も考えられます。
いつもどの部分にインスリン注射をしていますか?打ちにくいと感じることはありませんか?
case3
いつもおへその右と左に交互に打っているよ
患者さんが「毎回違う場所に注射している」と言っても、同じ部分に頻繁に注射している可能性があります。特に長期に渡ってインスリン治療をしている患者さんは慣れによる自己判断もあるので、定期的に確認が必要です。
参考資料
インスリン製剤各種添付文書
ブログの調子はどうですか
こんにちは、ちゃんゆきです。
まずは続ける事を目標にしたはずなのに、全然記事が更新されていないじゃないか!
と思いますよね。
そうなんです。全然更新してないんです。
でも下書きはいっぱい溜まってきてるんです!
だって、すぐには公開できないんだもの…
最初からクオリティを求めすぎなのか…?
継続は力なり
続ける事は難しい。
難しいからこそ、力になる。
毎日歩いていると、いつかは目的地にたどり着くらしい。
目的地
どこにあるんだ?
アウトプットする事も学習のひとつ
まずは続けてみよう。