アミロイドーシス
アミロイドーシスとは
アミロイドと呼ばれるナイロンのような線維状の異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着し、機能障害をおこす病気の総称です。複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスは国の指定難病になっています。
アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドが沈着する限局性アミロイドーシスの一種です。
アミロイドーシスを起こす薬
添付文書にアミロイドーシスの副作用が記載されているのはアダリムマブ(ヒュミラ®)とインスリン製剤です。
アダリムマブ
アダリムマブは「消化管アミロイドーシス」の副作用が添付文書に記載されています。消化管アミロイドーシスでは、沈着したアミロイドが主に物理的に消化管運動を障害し、便秘、激しい下痢、消化管潰瘍、出血、イレウスなどの症状を起こします。
インスリン製剤
インスリン製剤は「皮膚アミロイドーシス」の副作用が添付文書に記載されています。これは局所性のアミロイドーシスで、注射部位に限局した症状です。ボールの様な硬い皮下腫瘤のため、インスリンボールとも呼ばれます。
インスリン製剤には皮膚アミロイドーシスと似た症状のリポジストロフィー(皮下脂肪の形成異常)という副作用もあります。インスリンによるリポジストロフィーのほとんどがリポハイパートロフィー(皮下脂肪の肥大)なので弾性のあるしこりですが、皮膚アミロイドーシスは硬いしこりです。通常2~5cm程度の大きさですが自然消失は期待できないため、取り除く場合は外科的に切除する必要があります。
リポハイパートロフィーは以前から報告されていましたが、皮膚アミロイドーシスは最近になって報告されるようになりました。もともとこの2つは見た目や症状が似ているため、画像診断などで鑑別されずに皮膚アミロイドーシスであってもリポハイパートロフィーと診断されていた可能性が考えられます。
アミロイドーシスの発生機序
アミロイドーシスは原因タンパク質の種類によって機序が異なり、詳細はわかっていません。インスリン製剤による皮膚アミロイドーシスは、インスリンが変性してアミロイドとして注射部位に沈着するとの情報も見られますが、私が調べた限りでは詳細不明です。
皮膚アミロイドーシスを見逃すとどうなるか
アミロイドーシス部位にインスリン注射を打ってもインスリンが血中に到達できずに分解されてしまうため、血糖降下作用が減弱し血糖コントロール不良となります。
アミロイドーシス部分は痛みを感じにくいため、患者さんがあえてその部分に注射を繰り返す事で、アミロイド沈着がより進んでしまいます。また、正常な皮膚とアミロイドーシス部分ではインスリン吸収に差があるため、同じ単位数のインスリン注射でも注射部位が変わる事で血糖コントロール不良になったり、逆に低血糖のリスクにもなります。
これは同じように注射部位にしこりを起こすリポジストロフィーでも同じなので、注射部位にしこりがある場合はどちらにせよ注射手技と血糖コントロールに注意が必要です。
アミロイドーシスを防ぐには
アダリムマブによる消化管アミロイドーシスは詳細不明のため、予防法はありません。
一方、インスリン製剤による皮膚アミロイドーシスは、毎回同じ場所に注射をしないようにする事である程度防ぐ事が可能だと考えられます。前回の注射部位から指2本分ほどずらす、注射部位をローテーションしていくなど、基本的な手技の説明を徹底する事が重要です。
先ほども述べたように、インスリン製剤によるしこりができている部位は注射による痛みが少ないため、患者さんが痛みを避けるために同じ部位に打ち続けてしまう事が考えられます。注射前には患者さん自身で皮膚の状態を確認してもらうとともに、病院や薬局で定期的に皮膚の状態や注射手技を確認する事も大切だと考えます。
その他に注意すること
患者さんが「毎回注射部位を変えている」と言っても、おへその左右の同じ場所に交互に注射しているだけかもしれません。また、体が不自由な方は腕の可動域が狭く、自己注射ができる範囲が限定される事があります。その場合、注射部位が重なりやすく、皮膚アミロイドーシスやリポジストロフィーを起こすリスクが高くなるので特に注意が必要と考えられます。
添付文書には「 注射箇所の腫瘤や硬結が認められた場合には、当該箇所へ
の投与を避けること。」と記載がありますが、投薬時にしこりを見つけた場合、その場で注射部位の変更指示はせずに医師に相談する必要があります。皮膚の状態によって薬の吸収速度に差が出るため、特にインスリン製剤の場合は低血糖のリスクが高くなり危険です。
服薬指導をしてみよう
case1
注射を打つ部分を指で触ったときに、しこりを感じる事はありませんか?
しこりがある場合、急に注射部位を変えると普段よりインスリンの作用が強く出て低血糖のリスクがあるため、注射部位の変更指示はせずに医師に相談するよう指導します。
case2
体の動きが悪い方や、網膜症などで視力の低下があると、注射部位をずらす事が難しく同じ部位に注射する事が多くなる事も考えられます。
いつもどの部分にインスリン注射をしていますか?打ちにくいと感じることはありませんか?
case3
いつもおへその右と左に交互に打っているよ
患者さんが「毎回違う場所に注射している」と言っても、同じ部分に頻繁に注射している可能性があります。特に長期に渡ってインスリン治療をしている患者さんは慣れによる自己判断もあるので、定期的に確認が必要です。